詩人・朗読家の詩村あかね(うたむらあかね)さんに絵本を紹介していただくコラムです。
今月もぜひ参考にしてみてください!
こんにちは。みなさま、お元気でお過ごしでしょうか。
さて、4月と言えば学校が始まる月。入学し新しい学校生活が始まる。学年が上ってクラス替えや担任の先生がかわられたりする。または受験生としての一年が始まるというお子様もいらっしゃることでしょう。ワクワクドキドキの月ですね。
私が子どもの頃(1960~70年代)の日本は高度経済成長期でした。幼児教育が盛んになり、地域の子どもはこぞって幼稚園に行きました。そんな中、自営業者の父は「お父さんが読み書きや計算を教えるから幼稚園には行かなくていい」というナゾの持論(笑)で私を幼稚園に行かせませんでした。その影響か、公立小学校に入学してすぐの頃、女の子グループに上手く馴染めず疎外感を感じて学校に行きたくない日が続きました。でも当時は、親も子も学校に行くのは当たり前、何があっても行かねばならないのが学校…という固定観念が強かったのです。
でも、今になってみると「それってほんとう?」と疑いの気持ちがわきます。鋳型にはめられるような息苦しさを感じつつ小・中学校時代を過ごした私は、これからの子どもたちにとって学校が、より自由で呼吸のしやすい場所になっていってくれることを願います。
今月は、「学校と子どもの個性」というテーマで4冊の絵本を選んでみましたので、お子様との会話の材料にしていただけると嬉しいです。そして、大人向けの読み物を一冊。
絵本が気分を楽にして子どもを笑顔にする…ということを、子育てや読み聞かせの現場で何度も見てきました。ぜひ、ご参考になさってください。
- 『くんちゃんのはじめてのがっこう』(ドロシー・マリノ/作 まさきるりこ/訳 ペンギン社)
対象年齢:4、5歳~小学校1、2年生
子どもを小学校に入学させるにあたり、「小1の壁」という問題があることを先日ニュースで知りました。共働き家庭の増加に伴い心配事も増えてくるのは当然かと思いますが、案ずるより産むが易し。案外子どもは逞しく、しなやかに新生活になじんでしまうものかもしれません。この絵本で子どもの喜びと不安を、クマの子・くんちゃんはしっかりと体現してくれています。そして、初めての登校前、学校までの道のり、子どもとの離れ際、家で迎える両親の表情や姿勢にもぜひ注目してみてください。学校とくんちゃんに対する両親の心情が感じられると思います。現在、くんちゃんシリーズとして全7巻が刊行されています。
子どもにはもちろん、ご両親にも楽しんでいただきたいシリーズです。
- 『いつもちこくのおとこ―ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー』(ジョン・バーニンガム/作 谷川俊太郎/訳 あかね書房)
対象年齢:小学校3、4年生~中学生
何度も作中に登場する「ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー」という妙に長ったらしい名前を子どもはすぐに覚えて楽しく復唱することでしょう。
学校へ急ぐジョンの前に数々の〈事件〉が立ちはだかります。それに懸命に対処することで毎回遅刻してしまうジョンですが、先生はジョンの言うことを信じてくれません。彼を嘘つき呼ばわりして罰まで与える始末。それにもめげずに「おべんきょう」しに出かけるジョンの淡々とした姿に可笑しみと逞しさを感じます。ラストのどんでん返しに胸がスカッとすると同時に、胸のモヤモヤが晴れていくような心地よさを感じます。何が起きても動じず、心当たりがないことに反省なんてせず、不条理に対し軽く身をかわして、自分にとってもっとよい学びをするために前に進んでいく。今の子どもたちは(私などが心配しなくても)ジョンのようなしなやかさを、すでに持っていることでしょう。
谷川俊太郎さんならではのリズミカルな名訳。何度も開きたくなる一冊です。
- 『ありがとう、フォルカーせんせい』(パトリシア・ポラッコ/作 さくまゆみこ/訳 岩崎書店)
- 続編 『ありがとう、チュウ先生 わたしが絵かきになったわけ』(パトリシア・ポラッコ/作 さくまゆみこ/訳 岩崎書店)
対象年齢:小学校3、4年生~大人
自身が学習障害であることがわからず小学校生活を過ごしたパトリシア・ポラッコの自伝的絵本。主人公のトリシャは絵を描くことと本を読んでもらうことが大好きな少女。勉強を楽しみにして入学したのに学校では文字や数字がうまく読めなかった。クラスメートから心ない言葉でからかわれ、ひどく傷ついたトリシャの前にヒーローのような新任教師が現れる。文字や数字と格闘するトリシャをフォルカー先生は的確に導き、寄り添っていく。
大人になったトリシャがフォルカー先生と再会するエピソードが最終ページで語られ、読者の心を揺さぶります。続編は、主人公がその後に出会った美術教師のチュウ先生との物語。素晴らしい大人との出会いは子どもに宝物をくれるんですよね。苦手があると尻込みしてしまいがちな子どもに力をくれる絵本です。併せてどうぞ。
『わたしが「わたし」を助けに行こう-自分を救う心理学-』(橋本翔太/作 サンマーク出版)
対象年齢:高校生~大人
2024年春に出版され話題になった公認心理師、音楽療法家、作家としてご活躍の橋本翔太さんが書かれた心理学系読み物。無意識の領域にいる心の防衛隊「ナイト(騎士)くん」と「わたし」のストーリーを軸に、〈心のシグナルは身体に出る〉、〈相手に思ったことが言えないとき〉、〈悩みを繰り返さないために〉、〈SNSがやめられない理由〉などをテーマに、わかりやすい文章で語られています。子ども向けではありませんが、専門用語が少ないので中・高生くらいならば読みこなせると思います。心理ワークも挿入され、実用的な内容になっています。この一冊を知ることで、子どもの思春期特有の悩みに対しても何らかのヒントが得られるかもしれません。
筆者:詩村あかね(うたむらあかね)1963年東京生まれ。詩人・朗読家。
第16回「詩とメルヘン賞(サンリオ文化賞)」、第41回「埼玉文学賞」詩部門正賞、第14回「白鳥省吾賞」最優秀賞、資生堂ウェブ「花椿」年間賞他、詩での受賞歴多数。
第一詩集『風が運べないものたちへ』(サンリオ)、電子版詩集『鳥のいる場所』(RANGAI出版)など。1999年より「子どもと本の会・MOMO」主宰。小学校や児童館で読み聞かせ。各地で子ども向けおはなし会や親子イベント、絵本講座、大人向け朗読会を開催。